60数年の人生の中で、これほど衝撃的な事件に出会ったのは初めてである。有史以来存在していたであろう西湘二宮海岸の砂浜が、9月7日の台風9号の荒波によって突如消えてしまったのである。
長い、長〜い歴史の一ページがたった一晩でめくられ、美しく、白砂で覆われた二宮海岸はもうそこには無い。これから静けさが続きさえすれば、時間は掛かろうが再び砂は取り戻すだろう。・・そんな楽観論もある。
しかし、同時にそんな補償は何処にも無い。
私にとって、幼少期から青年時代に遊び学んだ自然学の場、生涯のシロギスの投げ釣場として親しんだ海岸、地元の半農半漁を支えた地曳網なども、この名浜の消滅とともに無くなってしまったことになる。
本当に残念だ。本当に寂しい。そして、本当に悔しくてしょうがない。
・・・全ての原因は、人為によって引き起こされたことは云うまでもない。今、災害復旧工事によって道路自体は利便性、安全性が確保できるとは思う。しかし、決して砂浜を戻すような計画になっては居ないだろう。
・・むしろ、これからは地球温暖化などによて再々の天変地異が起き、更なる破壊と復旧工事が繰り返される。そして砂浜であったところはより深く広く海となり、山と積まれたテトラポットには、常に荒波が砕け散る。そこには、絶対に釣り人などを近づけさせない。・・そんな殺伐とした海岸になっているに違いない。
今、陸からは海岸に誰も近づけない。バイパス下のトンネルは全て閉じられている。工事に邪魔だからと言うだけではない。海岸への降り口の一歩先に砂浜は無く、水面が広がっているか或いは波が打ち寄せると言った、余りにも無残で危険な状況がそこにある。
そうした中、平塚の船宿:庄三郎丸のはからいで海上からの災害復旧現場を視察させていただいた。たった一人の興味心を抱いた者のために、無償でチャーター船を仕立てていただいた社長の後藤勇さんにこの場を借りて深く謝意を申し上げたい。
写真をご覧頂きたい。被災は大磯海岸から始まるが、特にひどい所は、大磯町と二宮町の境付近に始まり、二宮中学校下、インターチェンジのループ下、海底ケーブル付近に続く。一帯は、西湘バイパスの擁壁が無残に崩れ海岸縁にあったテトラ群は海中に没してしまった。勿論、砂浜などは微塵も無い。
不謹慎かもしれないが、因みに、いま投げ釣りが可能なのはロングビーチ下からゴルフ場下迄である。だが、そこの砂浜は狭く、少しの高波でも波を被る。もしもの場合、逃げ場も無く危険な状況下にあるから、先ずは行かない方が無難だろう。
消えてしまった西湘・二宮海岸の砂浜
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執筆者:高澤鱚介