もう、かれこれ十数年前のことだった。投げ竿はどんどん進化しつつあり、多くの投げ釣りマンは高価にも拘らずその素晴らしい高級竿を使い始めていた。
・・・それに引き替え、その格調高い竿に決して似合わないサオ立てが恥ずかしくも無く使われていた。
サオ立てとは、独立した一つの釣り道具として成らないのだろうか? ・・随分悩みながら、ゴルフシャフトやスキーストック等のお古を改良し、それなりのサオ立ては出来た。・・・しかし、それでは何時までたっても独立は出来ない・・。
軽くて丈夫、美しさと品格がともなった「高級感にあふれた竿立て」が欲しい。・・・どうせ造るなら、心して思い切ってやるしかないだろう。掛かる資金のことなどは考えもせず出発してしまったのである。・・・サオ立てを造るには、シャフト、竿受け、石突きの3品が最低必要となる。これらすべては特注で造らねばならない。
先ずはマミヤOPの友人を通じて、ゴルフクラブを製作していた同社に「カーボンシャフト」で造りたいことを相談・・・。ただし、ゴルフシャフトでは柔らかすぎてダメ。肉厚で軽く、塗装は焼き付けで、鱚介マークは入るか?など等、・・・兎も角、相手が気をそらさぬよう、間をおかず、気を入れて交渉したのである。
そして半年後、出来上がったカーボンシャフトは細身軽量で、予想を超える出来栄えだった。
次は「竿受け」と「石突き」である。これらはシャフトに合わせたサイズて造らねばならない。
竿受けは、兄弟の契りを交わした高知の堀オリジナル工房を営む堀川宗雄さんに依頼・・。「ケヤキ材」から、手作業での削り出しでプロトタイプを造ってもらったのである。
・・しかし、それからが大変だった。そのプロトタイプと同じものを造ってくれる木工所を探さねばならなかった。小田原市内には多くの木工所があるが、全く縁がない。・・・そこで小田原市の産業課に問い合わせ、小田原木工連合会を通じて、引き受けてくれそうな木工所を紹介してもらった。
問題は「竿受け」を造るには、細かで多くの手作業が伴う。言うなれば「木工芸品」を作れるような木工所でなければならなかったのである。
幸いにして・・と言うか、小生の高見澤姓を聴いた社長さんが「あんたは長野県出身か?」と尋ねたのである。確かに、祖先は南佐久です・・と言うと、自分は川上村出身だと言う。・・同じ小海線(小淵沢〜小諸)の沿線だったのである。
プロトタイプを見て、最初は怪訝であった社長さんだったが、同じ故郷という事ですっかり打ち解け、快く引き受けてくれたのである。
そして最後は「石突き」である。小・中時代の同窓生が二宮で町工場をやっている。こんな細かな仕事だから果たしてやってくれるだろうか?
直径10ミリ×長さ200ミリのステンレス棒に、内径9ミリ×深さ70ミリの穴を掘り込むのである。・・・しかし、幼友達とは有り難いもの・・・、こちらも快く引き受けてくれたのである。
シャフト、竿受け、石突きの3品、全て人との縁がこれを繫げてくれたのである。
そして、これをもとに色々な「化粧巻き」を施し、独立した一つの釣り道具としての「竿立て」が完成したのである。
・・・それ以降、大手釣りメーカーも専用のサオ立てを造り販売しているが、高価であり、手造り感など無い工業製品ばかりである。・・・だから、正直言って、今の「鱚介のサオ立て」は決してそれらに引けは取らないし、最良、最高の竿立てであると自負している。
さて、以来、20年に近く、既に材料である3品は無く、あと数本で絶版と言う危機的状況を迎えていた。・・しかし、これで辞めてしまってよいのだろうか??
・・・最後に、これまで造って来た中で一番人気の「アワビ巻き」を最終章として、もう一度挑戦してみたい気持ちに強く駆られたのである。
早速行動を起こし、過日、竿受けは新たなデザインで出来上がった。ただし、これまでの小田原の木工所では専用のバイトが無く出来なかった。止む無く、3軸、5軸のコンピューター制御のNC旋盤を持つ、秋田の木工所にお願いしてみたのである。
して、確かにきれいに仕上がった。・・・世の中が進化していることを改めて知ったのである。
そして一番の問題はシャフトである。既に製造中止した会社で一からは出来ない。何とか、残った在庫をかき集め、50本だけ従来と同じ物が手配できた。
・・・そして石突きも完成した。
後は、・・今、この50本を、気持ちを込めて造りつつある。
シャフトの色は「ブラウン」と「ワインレッド」のみ、アワビの色は一番人気の「ブラック」のみである。
また、正直なところ、自分ではどうしても上手く出来なかった「アワビ巻き」下部のカラースレッドを、この最終章では「工房哲」さんにお願いすることにした。心残りをしないよう綺麗に巻き込んでもらい、完成度を高めたかったからである。
出来上がるのは今月いっぱい。7月1日から発売できればと思って居る。少々値段(15000円)は高くなってしまうがお許し願いたい。
「鱚介の竿立て」は、この50本を持って終えるが、もう恐らく、これ以上の竿立ては生まれないのではないかと思う。
自分自身、無くしてしまうことは勿体ないと考えるのだが、3品の手配等、もう、これ以上は無理なのである。
決して、買い急ぎを求める訳では無い。・・が、この際、本当に「この竿立ての良さを知った方」にお使い頂けることを切望しているのだが・・・。
竿立て・・最終章は全てアワビ巻き!!
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執筆者:高澤鱚介