京の旅・・御室の桜

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先日、30数年ぶりに京都の庭めぐりをしてきた。学生時代から数年間、よく通ったことを思い出しながら・・・。新幹線ひかりで、京都着11時。少し贅沢だが限られた時間の中なるべく多くを欲張りたいがため、観光タクシーを手配した。3日間の中に訪ね、印象に残ったところを書き残しておきたい。第1日目、この日は東山山麓を中心に、「泉涌寺」「清水寺」「平安神宮」「南禅寺」「詩仙堂」「赤山禅院」と欲張った。だが、数から見ればこれはほんの一部でしかない。最初に訪ねたのは、月輪山の麓に静かにたたずむ「泉湧寺」。ここは、1242年以来の歴代天皇の山陵が営まれ、皇室の菩提所として篤い信仰を集めている。全国に沢山あるお寺の中のお寺で「御寺(みてら)」とも呼ばれる。ここの「御座所庭園」は、実に手入れが行き届き森閑とした中に心を和らげる何とも落ち着いた庭であった。京都の庭の基本は、池泉を配した回遊式のいわゆる日本庭園と、須弥山という仏教での世界観を模した九山八海を石や苔で配した方丈の石庭が多い。更に、これらの庭の多くは背後の緑の山々を借景し、大きな世界観の中にその存在を位置づけている。次に訪ねたのは、「音羽山清水寺」。余りにも有名で何となく俗っぽく感じられてしまう寺だが、ここでは知る人ぞ知る「成就院庭園」を見たかったのである。しかし、残念ながらこの日は公開されておらず、止む無く修学旅行生の群れに混じって「清水の舞台」を見学した。新緑と桜吹雪の先に見える京都の町はとても美しかった。次に訪れたのは、平安神宮の「神苑」という3万?に及ぶ回遊式庭園。比較的新しい庭であるが、季節ごとに、古来からの日本の花が咲き乱れる。この日の花は満開の「紅しだれ桜」。池端に沿って所々に配置されて咲く「御衣黄桜」が、アクセントをかもし出していた。そして「詩仙堂」・・私が好きな庭の一つである。1641年、隷書、楷書の大家である石川丈山が住いとした庵であり、狩野探幽が描いた中国の詩家三十六人の肖像画がある。そっちの方は余り興味は持てないが、見どころは、古い庵とマッチした少し高低差を持った小さな回遊式庭園である。特に今はサツキが見ごろで、手入れの行き届いた明るく清楚な庭と古い庵の雰囲気が実に気持ちを和やかにしてくれた。二日目、京都の北をめぐることとした。先ずは、宿の直ぐ近くから出ているケーブルカーからロープウェイに乗り継いで「比叡山延暦寺」に向かう。その昔、信長が焼き討ちされた「本能寺」は今は無い。「延暦寺」とは3塔(東塔、西塔、横川)に広く分散して成り、ここを全て巡るのは大変だ。そんなことで、山頂に待たせた観光タクシーで延暦寺の主寺「根本中堂」に行く。ここは国内の仏教寺の開祖である法然、栄西、親鸞、道元、日蓮等などが修行した寺であるという。本堂にお参りしたが、確かに大きく、もの凄い規模だ。一生のうちに一度はお参りしたいと思っていたから、賽銭を弾み、家族の安全を祈願し「不滅の法灯御守」を買い求めた。ここでは庭こそ見られなかったが、正に全山が一つの雄大な庭として感じられた。山頂から、「比叡ドライブウェイ」で琵琶湖を眼下に観ながら次に向う。これまで秋の紅葉季にしか訪れていない京都の奥、大原の「寂光院」と「三千院」を目指す。共に、皇族と縁を持つ天台宗の尼寺、門跡で「侘び寂び」を備えた名園を持つ。最初に寄ったのは、1185年ころ建礼門院徳子が過ごしたという「寂光院」。実は、この本堂は7年前放火に遭い、3年前に建替えられたばかりである。驚いたことに、庭に残った木々の火傷の痕が未だに生々しいのである。ただ、「回遊式四方正面の庭」の大部分は昔のままの良さを残しており、これからの長い時間の経過の中で復元された「六万体地蔵尊」や「庵」を、その中に溶け込ませて行くことだろう。「三千院」・・余りにも有名過ぎる。創建は800年代、最澄上人が比叡山延暦寺建立の際、草庵として建てられたもので、明治4年に今の「三千院」と命名されたと聞く。この三千院の良さは秋深き紅葉の頃ではあるが、それ以外の季節の姿を知る者は意外と少ない。森閑とした庭に下り、苔むした杉の木立から一歩出るとピンクの石楠花や真っ赤な山椿、そして、白く房状に咲く馬酔木(アセビ)が今を盛りと咲いていた。未だ花芽を持たない紫陽花が咲く頃、また一段と素晴らしさを演出するのだろう。この日の最後は「仁和寺」。この寺は888年に建立された真言宗御室派の総本山で、天皇家とのご縁が深い。仁王門、金堂、五重塔などの伽藍が立ち並び「世界遺産」に指定されている。ここに来たかったのは京都でも一番の遅咲きの桜と言われる「御室桜」・・それを一目見たかったのである。実はこの桜は不思議な桜で、開花時期が遅いと言うだけでなく、幹が株状に根本から分かれ、背丈が極端に低いのである。さらに、花は大型のピンクの八重で房状に密に咲くのである。そして、他に移植したのではそうはならないと言う。訪ねたこの日、正に満開だった。そして、何とも不思議を、合わせ見ることが出来たのである。聞く所、今年から学術的な調査が行われるそうだ。私自身、何もかも解明されて一般化してしまうよりも、解らぬままの不思議やここだけの一品・・、そうした価値観を尊重したいと思うのであるが如何だろうか?三日目・・。最後の日、我が菩提寺である「浄土宗塩海山花月院知足寺」の総本山である「知恩院」にお参りした。1175年法然上人が開かれた寺で、威風堂々とした伽藍群からなり、全国に7千の寺院と六百万人の檀信徒を擁するという。4年後、法然上人八百年大遠忌が開かれるが、訪れたこの日は年1回開かれる「御忌」の法要の真っ最中であった。全国から選ばれた寺の住職が大勢集まり、本堂大伽藍から厳粛な読経が聞こえていた。一方の目的である庭・・ここには、「方丈庭園」「山亭庭園」「友禅苑」の3つがある。「方丈庭園」は、山すそにそって池が配置された石庭を持った回遊式庭園である。そこから坂道を辿ると、京都の町が一望できる「山亭庭園」に着く。狭くもあるが、ゆっくりと落ち着いて廻れる美しい庭であった。もう一つの「友禅苑」は、その名が示すように友禅染めの始祖である「宮崎友禅翁」ゆかりの庭である。静かな庭を行くと、その奥に「華麗庵」「白寿庵」の二つの茶席が設えられている。正に日本の伝統文化を伝える庭の一つだろう。これが最後の庭となる・・心ゆくまで楽しむことが出来た。またまた、長くなってしまった。久し振りの「京都の庭」訪問で、ついつい力が入ってしまった。振り返ってみると、心に感じ、残ったその良さを文章に置き換えることは到底出来なかった。やはり、庭に接し、浸ってみて初めて本物の「日本庭園」の素晴らしさが感じられるもの。釣りに通じる「心の癒し」を、また何時の日か体験したいと思っている。

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